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三谷幸喜『ベッジ・パードン』 2011/7/16

三谷幸喜のお芝居『ベッジ・パードン』を観てきました。2011年7月6日(土)18時の回の立ち見です。

なぜか今回チケットを取り損ねていたのですが、評判があまりに良いので前日に電話予約にチャレンジし、当日券購入の整理番号64番を入手していました。

結局取れた立ち見席は1階の下手側の前から6番目。セットの上部は見え辛いものの、舞台には非常に近くて大満足の観劇でした。3時間という長丁場でしたが、60を過ぎた母も一緒に立って観劇してくれ、二人とも大満足の夜となりました。

最近の我が家では、もっぱら大泉洋の『水曜どうでしょう』で大笑いするのがリフレッシュ方法なので、彼を舞台で見れるというのもテンションが上がりました。三谷さんとの相性は抜群で、普段三谷さんのお芝居を見るときに感じる「ああ、本当はこの台詞笑えるんだろうな、惜しいな」というフラストレーションが一切無い!間の取り方が絶妙で、ことごとく笑える。

朝日新聞のコラムで三谷さんが『彼が十年早く、もしくは僕が十年遅く生まれていれば、きっとどこかで出会って一緒に劇団を作っていたような気がしてならない』と書いていましたが、それくらい大泉洋は三谷さんの脚本を文句なしの巧みさでお芝居にしていました。お見事です。ちょっと見直した(笑)

もちろん、主役の野村萬斎さんが、後の夏目漱石を憂いある演技で魅せてくれたのも大きかったですし、浅野和之さんの七変化ならぬ、11変化の演じ分けも素晴らしかった!

以下、ネタばれしています。ご注意を。

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舞台は1900年のロンドン。夏目漱石の留学時代のお話です。

私自身もイギリスに暮らしていたことがあるので、漱石の体験したカルチャーショックや外国で暮らすことのもどかしさや、英語が喋れないことのコンプレックスなど、辛い気持ちがよくわかります。イギリスって冬はすぐに夜になってしまうし、食事はおいしくないし、私にとっても憂鬱な思い出が多々あります。

当時、「あの夏目漱石でもノイローゼになったんだから、私が落ち込むのも当然だわ」と自分を励ましていました。なので、今回のこのお芝居、自分に重なるシーンがたくさんありました。

と書くと、なんだか暗いお話だったように聞こえますが、基本的には笑えるコメディーです。

出しても出しても妻からは手紙が返ってこない。唯一コンプレックスを感じずに英語で話せる相手、メイドのアニーに身の回りの世話をしてもらう内に芽生える恋。そのアニーの弟によって巻き起こされるトラブルから、若干ドタバタなストーリーになりますが、そこは萬斎さんの存在感で、しっかりとした軸のあるお芝居に仕上がっていました。アニーの死によって、小説を書き始めるエンディングでは、萬斎さんが、正に私たちがよく知るあの写真の夏目漱石の顔に重なり、なんというか、上等なお芝居を見させてもらったなぁと思いました。


大泉洋演じる惣太郎が、日本人同士でも英語で喋らないとオレのように英語が上手くはならないぞ、と言ってずっと英語で押し通すその裏に、実は秋田弁しか話せないコンプレックスが隠れていたのですが、これも大泉洋ならではの訛りの上手さで会場は大爆笑。日本語になると途端にキャラまで弱気な男に変わるのがまた可笑しかったですね。

漱石が、イギリス人の顔が皆同じに見えるんだ、と嘆くシーン。ああ、確かに外国人の顔ってみんな同じに見えてしまうんだよねぇ、と思ったのもつかの間、実は浅野さんがおひとりで脇役10人(と1匹)を演じ分けているので、同じ顔なの当たり前!という事実に気付き、会場はまた大爆笑。こういうのがお芝居ならではの面白さですね。

それにしても浅野さん、本当に巧みに演じ分けてらして、あっぱれとしか言いようがありません。年齢も、職業も、性別も違う様々なイギリス人を、実にイギリス人っぽく演じてらっしゃいました。一番笑えたキャラはやっぱり、銀行強盗を企む「弾丸ロス」ですが、個人的にはビクトリア女王が激似で衝撃的でした!肖像画のまんま!

浅野和之さんは、三谷さんが一番信頼している役者さんなんだと以前コラムに書かれていましたが、それが初めて納得できたお芝居でした。正直言って、映画『マジック・アワー』のデラ富樫(本物のほう)とか、いまいちだなぁと思っていたので。スクリーンで見るよりも、舞台上で本領を発揮なさる役者さんなのでしょう。

この『ベッジ・パードン』、今まで見た三谷さんのお芝居の中で群を抜いて良かったです。役者が5人しかいないから、お得意の群像劇にはなり得ず、主役はあくまでも野村萬斎さん。三谷さんにしては結構珍しい。しかも初のラブストーリー。パンフレットにご自身で『初』と書かれているからそうなんでしょう。『彦馬がゆく』もラブストーリーだと私は思うけれど。

ちなみにタイトルは、アニーがコックニー訛りな為に「アイ・ベッグ・ユア・パードン?」が「ベッジ・パードン」と漱石に聞こえたことから、ニックネームをベッジ・パードンとした、という本当のエピソードから来ています。


お芝居を観終わってから気づいたのですが、大家さんの旦那さんの方が、ペットの犬(ミスター・ジャック)の死をきっかけに家を出て行ってしまうのすが、そういえば三谷家もペットの猫の死のすぐ後に奥様が出て行かれましたよね。それが離婚のキッカケでは無いとは思いますが、なんだか切ない気持になりました。

今回のお芝居には、気持ちというのは、言葉にしないと伝わらないんだよ、というメッセージも込めてあるとラジオでも仰ってました。大家さんの奥様のほうが、アニーを「叱ってないときは褒めてるつもりでしたよ」という台詞があったのですが、もちろんその気持ちは伝わっておらず、最後に初めて感謝の気持ちを述べるのですが、夫婦間でも似たようなことあるよなぁと思ったのでした。私も、ちゃんと言葉にして感謝の気持ち、伝えよう。

なんだか久しぶりに長い記事を書きました。読んで下さった方、ありがとう!またお芝居の情報を収集して、面白いもの観に行くぞ。

『ベッジ・パードン』の公演は7月31日まで。当日券、ぜひチャレンジを!詳細は↓。
http://www.siscompany.com/03produce/33bedge/index.htm

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